
カリグラファー・島野真希さんが語る、創作と文具と文字の深い関係
SOUZOはカリグラファー・書道家として活躍する島野真希さんとコラボレーションし、オリジナルデザイン織りメッセージステッカー「Bloom Letters」に続く第2弾として、2026年1月16日にオリジナルデザイン織りイニシャル刺繍ステッカーを発表しました。 島野さんのこれまでの歩み、SOUZOとのコラボレーションによるエピソード、創作のプロセス、文字にかける想いなど幅広くお話をお聞きしていきます。

カリグラフィーとの出会いと歩み
ー 島野さんにとっての「書くこと」の原点についてお聞かせください。
幼稚園の年中になるタイミングで習い始めた、硬筆になるのでしょうか。私が通っていた香川県の書道教室では、筆圧を安定させ、字の形を知るという意味で小学生未満の子どもたちは硬筆のみを練習し、小学校へ上がると毛筆と硬筆の両方を学ぶようになります。 書道展などへ出品すると賞をいただけることが多く、その嬉しさもあり、大学進学にあわせて上京するまで田尾翠苑先生に師事していました。このとき積み重ねてきたものが、私の「カリグラフィー」と「書道」の土台を構築していると感じています。
ー カリグラフィーとはいつ出会ったのでしょうか?
カリグラフィーという表現を知ったのは、大学卒業後にウエディングプランナーをしていた頃になります。多種多様な書体のある手法だときちんと認識したのは2009年、自分が結婚式を挙げるときでした。せっかくならば自分で席札を書いてみようと、見よう見まねでイタリック体に挑戦したことを覚えています。
勤めていた会社の代表が私の字を気に入ってくれ、メニュー表などの文字を書く機会は度々ありましたけれど、当時は「書くことを仕事する」とは考えてもいませんでした。

ー なぜカリグラファーとしての道を歩むことになったのですか?
2010年に第一子、2012年に第二子を出産し、主婦業に専念しつつも、ウエディングプランナー時代の社長がたまに書の仕事を依頼してくれていたんです。それで改めて書を学ぼうとふたば書道会・武田双龍先生の門を叩き、ゆくゆくは文字を仕事にできたらいいなと考えるようになりました。
そんな矢先、前職の同期たちとのランチ会でご一緒したアートディレクターのジョー・マエザワさんが、「モダンカリグラフィーもやってみたら? いまなら日本の第一人者になれるはずだよ」と勧めてくださって。
モダンカリグラフィーは2010年以降、アメリカを中心に流行り始めた、フリーハンドで描く新しいカリグラフィーのスタイル。最大の特徴でありおもしろさは、それぞれのアーティストが独自の文字のスタイルを確立していることだと感じています。
私は瞬時にモダンカリグラフィーの洗練された世界に魅了され、Laura Hooperさんというカリグラファーの教材をベースに、ほぼ独学で技術を習得していきました。

ー 島野さん独自のモダンカリグラフィーのスタイルとは?
モダンカリグラフィーの世界に足を踏み入れたとき、私はアーティストがシーンに合わせて書体を変化させながら多様な表現をする、スタイルの広がりに衝撃を受けました。私自身の表現も時とともに移ろっていて、当初は可愛らしいデコラティブな書体でしたが、いまは削ぎ落とされたシンプルなスタイルを好んでいます。
主に用いているのが、クラシカルで細身の「Solif(ソリフ)」とカジュアルで独創性の高い「Anew(アニュー)」。いずれも私のオリジナルの書体で、ほかにもオリジナルは多数ありますが近年はこの2つがメインですね。
緻密な作業と深い想いが作品をつくりあげていく
ー 作品制作に取り組むうえで、意識されていることはありますか?
SOUZOとのコラボレーションのようなクリエイティブな仕事や自身の作品の際は、静かな環境で制作に取り組んでいます。私はひとりになれる空間でなければ集中することができません。子どもが寝静まった深夜か早朝など、音楽もかけずに一切の無音。“ゾーン”に入る状態にもっていくイメージですね。

ー 作品を制作する際のプロセスを教えてください。
たとえばカリグラフィーの手書き作品の場合、題材が外国語であれば自分の言葉として落とし込むため、まずは日本語に書き起こし、もとの単語と照らし合わせながら言葉が放つニュアンスを確認します。
そこから道具、色、レイアウトを決め、もっとも心地いいバランスが見つかるまで、何度も何度も書き続けていく。文字間や行間を数ミリ単位で比較したり、書いた文字を切り貼りして並べたり、文字のフォルムの一つひとつを微調整したり。とても緻密な作業なので時間はかかりますが、作品を仕上げるうえでどれも必要な工程です。
ー 完璧を求めすぎず、制作の過程において偶然生まれる表現を楽しむことはありますか?
もちろんありますよ。手を動かしていくうちに、はじめに想像していたものと異なる着地点へ行き着くことは少なくありません。
ー 島野さんはどのような想いで制作と向き合っているのでしょうか?
クライアントワークでもっとも大切にしているのは、喜んでいただける作品をつくり上げること。期待をどれだけ超えられるかが、一番大事にしているポイントになります。
一方で、オリジナルの作品は私自身を投影しているものだと思っているんですね。過去の作品であっても、作品を見ればそのときの自分の状態がすぐに分かる。作品に込めたい想いをしっかり表現できるよう、いつも制作に励んでいます。

ー インスピレーションはどこから得ていますか?
レストランでいただく素晴らしい料理の数々から、インスピレーションを受けることは多いですね。素材の調理法、器の選定、盛り付けの色使いやバランス、食事を引き立てる空間演出など、ひと皿ひと皿の背景にはさまざまなストーリーが存在しています。食が好きという理由もありますが、レストランには作品の参考になる要素がたくさん詰まっているんですよ。
また、美術館、ギャラリー、インスタレーションといった展示にも頻繁に足を運んでいますし、自然との触れ合いを通じて着想を得る機会も多々あります。これまでは線の美しさを追求してきましたが、ここ数年はカタチや表現の美しさに惹かれることが増えてきました。
「未完成の美しさ」を体現するSOUZOとのコラボ
ー 「未完成の美しさ」をコンセプトとするSOUZOとのコラボレーションはいかがでしたか?
私はかねてよりマルマンユーザーでしたから、コラボレーションはとても嬉しいお話でした。「未完成の美しさ」というコンセプトに基づくプロダクトも、新しいマルマンの表情が見れたといいますか、意外性があってとても素敵ですよね。
このコンセプトにもすごく共感しています。といいますのも、私は作品にサインや落款を入れて仕上げても、「完璧だ」と感じたためしがありません。もっとよくできたかもしれない、次はこうしようという感情が強く、いつもどこかが未完成。ですのでSOUZOにはシンパシーを感じていて、ユーザーの方が受け取る何かによって、完成につながるのではないかなと思っています。
ー コラボレーション第1弾はメッセージステッカー、第2弾は文字に花が咲き誇るイニシャルステッカーとなっています。イニシャルステッカーは「使い手の個性が芽生える」という想いを込めたプロダクトですが、つくり手である島野さんにとって新たな挑戦はありましたか?
第1弾も第2弾も手書きで文字を仕上げていることは共通しています。しかし第2弾は私にとってチャレンジングな制作となりました。
第1弾はいわゆる私の王道的なカリグラフィー。スクリプト体に属するオリジナルフォント「Solif」で、「Bloom Letters」、「Be Original」というメッセージが内包する想いを表現しています。
第2弾は水彩絵の具を用いていて、文字と花、「書く」と「描く」を融合させた、私の新しい扉を開いてくれるようなプロダクトとなりました。筆をもって描くカリグラフィーの制作は書の作品ともまた違い、新鮮でとても楽しかったです。

ー アルファベットを彩る花々もとても素敵ですね。
直感的に「可愛い!」と感じていただけるように、アルファベットと花のトータルバランスを重視しました。金木犀、ラナンキュラス、芍薬、バラ、ラベンダー、アネモネ、ポピーなど、アルファベットごとに異なるさまざまな花を配置しています。
ー 手書き文字特有の「ゆらぎ」がもつ味わいについて、島野さんはどのようにお考えですか?
同じ人が同じ条件で同じ文字を書いても、まったく同じにはなりません。線のゆらぎやインクのにじみなど、手書きはその都度、微妙な変化が生じてくる。その完璧ではないところ、つまり「未完成」であることが手書き文字のよさであると私は考えています。
イニシャルステッカーもぱっと見た限りではデジタルのフォントのようですが、よくよく見ると手書きならではのゆらぎがあるんですね。フォントを採用すれば、計算され尽くした美しさを表現できるはず。しかし手書きだからこそ、未完の余白ないし想像・創造の余白が生み出せるのです。

ー 制作の過程において、マルマンのSOUZOチームとのやりとりで印象的なエピソードはありますか?
先ほどお話しました通り、私はクライアントさんの要望に応えたいという想いがとても強い。しかしSOUZOとのコラボレーションにおいては、私に委ねてくださっていると感じるシーンが非常に多かったです。お互い自由に意見を出し合いながら、プロダクト制作に取り組むことができました。このステッカーを手にされた方の、大切な所有物にプラスしていただけたら嬉しく思います。
ワクワクを引き出す文具たち
ー カリグラフィーの制作で使われている主な道具を教えてください。
ポインテッドニブ(ペン先)やオブリークホルダー(ニブを支えるフェルールやフランジの付いたペン軸)など、収集癖もあってたくさん所有しているのですが、最近主に使っているのはこちらです。ニブは華奢なラインが描けるSpeedball社のHunt 101。ホルダーは初心者にもオススメなイギリス・Manuscript社製のものと、ヴェトナム・ハノイのカリグラフィーアーティスト・Dao Huy Hoanさんが手仕事で仕上げたものになります。
素材、重さ、グリップの太さ、フェルールやフランジの仕様などによって書き心地が異なるため、自分の道具の好みも行ったり来たりしていますね。

ー 島野さんにとって道具や文具はどのような存在ですか?
トキメクもの、ワクワクさせてくれるものです。なので購入した道具を満遍なく使うというより、気に入ったアイテムがコレクションに加わるだけで心が満たされるんですよ。もちろん書く楽しみもありますが、気分を上げてくれるモチベーションにもなっています。
ー 白紙のノートを前にしたとき、どんな感情が湧き上がってきますか?
SOUZOの「Essence Journal」は装丁の美しさを目にした瞬間、胸の高鳴りを感じました。文字を邪魔せず、レイアウトを組みやすい中紙の3mm⽅眼罫も気に入っています。
私は「Essence Journal」を旅のノートにしていて、写真やチケット、パンフレットなどの素材と文字を組み合わせたコラージュ形式で思い出を綴っているんですね。マグネット形式で開閉するボックスに収納できることも、特別感を演出してくれています。

ー 島野さんはマルマンユーザーとのことですが、どの製品をご愛用いただいているのでしょうか?
「図案スケッチブック」と「レポートパッド」です。「図案スケッチブック」はいまの仕事を始める前から愛用していますし、「レポートパッド」はカリグラフィーの練習用として重宝しています。
マルマンさんの製品は紙質が素晴らしいうえにリーズナブル。私が講師を務めるカリグラフィー教室の生徒さんにも「レポートパッド」を勧めていますよ。インクがにじみにくく、ノンストレスでスムースに書けますから、カリグラフィーの練習に最適なんです。
書けば書くほどに上達する文字の魅力
ー これからカリグラフィーや手書き文字を始めたい方へアドバイスをお願いします。
カリグラフィーも書も、文字は習えば誰でも書けます。肝心なのは続けること。「上手くならないから」と諦めそうになっても、あとひとつ山を越えれば必ず書けるようになる。ではいかにしてその山を越えるのかというと、書きたい文字を書くための方法を学べばいいんですね。文字はセンスでも、感覚的なものでもありません。誰でも上達できるのが、文字のいいところだと思っています。
お手本を真似る練習を重ね、基礎が固まったら、自分で表現していくという次のステップ。そのとき作品として書く言葉は、ぜひご自身で選んでください。字は練習の蓄積によって上達します。好きな言葉でなければそもそも練習が億劫になるでしょうし、繰り返し書くことで見つかる楽しさがありますから。

ー 日常生活のなかで「書くこと」を楽しむコツはありますか?
お手紙やギフトに添えるカードなど、手書きの言葉は気持ちを添える最適な方法ですよね。文字に温度感を宿せることは、「書く」という行為の魅力だと感じています。
ー 今後、チャレンジしたいことについてお聞かせください。
カリグラフィーと書道、どちらも私にとってなくてはならないものであり、どちらが好きかと選ぶこともできません。東洋の書道に対しカリグラフィーは「西洋の書」とも呼ばれますが、成り立ちが異なるため交わることはおそらくないでしょう。
しかし私は両方に情熱を注いでいます。カリグラフィーと書道は混じり合えないのではなく、双方によい影響をもたらす可能性を秘めている。これからの道を歩んでいくなかで、私はカリグラフィーと書道を融合させた、自分にしか生み出せないアートを探求していきたいと考えています。

島野さんとSOUZOが共鳴し合う「未完成の美しさ」への想い。SOUZOは使い手の想像と創造に寄り添い、自分らしい表現をサポートします。“未完成”からはじまる、想像と創造のプロセスを存分に楽しんでください。
島野真希(雅号:龍華)さん
幼少の頃に書道を始める。大学を卒業後、ブライダル業界でウェディングプランナーとして在籍しながら筆をもつ仕事にも携わり、カリグラフィーと出会う。結婚・出産を機に書道とカリグラフィーのアーティストとして独立し、2016年に日本モダンカリグラフィー協会を設立。ラグジュアリーブランドの筆耕やコラボレーション商品の販売、教材の監修、カリグラフィー教室の講師など多岐にわたり活躍する。近著『モダンカリグラフィー&ハンドライティング』(ビー・エヌ・エヌ)をはじめ著書多数。